2018/3/23

フォト刺繍への挑戦
フォト刺繍への挑戦

フォト刺繍への挑戦

フォト刺繍を通した表現技術の開発

「フォト刺繍」とは、刺繍の技術を使って写真を再現すること。カメラの撮影データやスキャナで取り込んだ画像を使って、刺繍用のソフトウェアでデータを生成し縫い上げます。最近では家庭用ミシンにも簡易の機能を持つ機種がありますが、精研ではさまざまな刺繍表現にかかわる研究と学びの手段として、ハイエンドでの取り組みを続けています。

ビッグサイズ

精研のフォト刺繍の特色の一つに、サイズの大きさがあります。刺繍は一針ずつ縫い進める、小さな作業の積み重ねです。それだけにサイズが大きくなればなるほど、難易度が上がります。実は始めた時は「こんなこともできるのかな」といった気軽な気持ちがありました。しかしやってみると実に大変です。いくつかの作例を上げて、最近の取り組みを紹介しましょう。

フォト刺繍はビッグサイズ
フォト刺繍はビッグサイズ
ポートレート

実は人の肌の再現は、刺繍が最も苦手とするジャンルです。刺繍の糸は途中で色を変えることができません。しかも一つの刺繍で使える色数には限りがあります。そのためグラデーションを表現するのがとても難しいのです。この作品では、モノトーンにすることで贅沢に色の変化をたどっています。色の継ぎ目は糸の継ぎ目になるため、できるだけ自然になるように工夫しました。
もう一つのポイントは目の周辺です。グラデーションだけでは全体がぼんやりした印象になります。そこで目の表現ではメリハリを意識しました。瞳やまつげなどでは、細かく縫いの方向を調整しています。またさりげなく加えた差し色が、全体に深みを与えています。この辺りは理屈を超えた直感に従った結果です。毎度のことながら奥の深さを感じてしまいます。

モノトーンでグラデーションを表現
モノトーンでグラデーションを表現
瞳の再現には縫い方向にも一工夫
瞳の再現には縫い方向にも一工夫
建造物

神社仏閣やお城など、歴史的な建物はとても取り組みがいのあるモチーフです。建物自体は形や色にメリハリがあり、刺繍用にデータを整える際には、どこか模型を組み立てていくような楽しさがあります。かと思えば庭木や雲、青い空などといった、自然の要素が端正な秩序を乱すのです。空一つとっても、青いのですが青一色では表現しきれません。
石垣などは、色とともに縫いの方向で悩みます。これによって面の表情に違いが出るのです。また刺繍には精度の限界があるため、細かな彫刻などは簡略化する必要があります。何を残して何を削ろうかと建造物に向き合っていると、当時の人々の息吹にふれたような感覚が訪れます。そんなときは「フォト刺繍も絵」なんだなと思ってしまいます。

建物には特有のやりがいがある
建物には特有のやりがいがある
ディティールの簡略化にも一工夫
ディティールの簡略化にも一工夫
メタルな表現

きれいに磨き込まれた金属のボディに、いろいろなものが映り込んでいます。この作品に着手したときは、ここまでの表現ができるとは思っていませんでした。ながらく布や糸に触ってきたので、金属のように何かを反射するイメージがなかったのです。実際、反射しているわけではありませんが、そういう表現はできたと思います。
コントラストが強いので、パートごとに糸の色を選んでいると、あまりに違う色が隣り合わせにくるために戸惑います。しかしそこは目の前の事実と直観を信じるしかありません。逆に背景の建物については、ふわっとした表現を心懸けました。その対比が車の持つメタリックな風合いを強調してくれると期待をしました。

メタルな表現に挑戦!
メタルな表現に挑戦!
ライトの透明感も表現
ライトの透明感も表現
ボリューム感・陰影

この作品の中には、二つの異なる要素がたくさん同居しています。ひまわりの真ん中にある種になるところは、こんもりと盛り上がって大きなボリューム感を生み出しています。その周りには、小さくて薄い花びらが並んでいます。夏の日射しを浴びた緑の葉は立体的な陰影を持ち、手前の花にはしっかりとピントがあっていて、遠くの花たちはぼんやりと風景の中に溶け込んでいます。
メリハリの効いた部分は、丁寧に作業を進めればそれなりに表現できます。問題はあまり目立たない背景の処理でした。実際にできあがったものを見ると、とても不思議な面と色で構成されています。そしてそれが正解なのです。最近は頭で計算するよりも、目で見た印象や感覚を大切にするようになりました。糸の流れを眺めていると、なんだかゴッホのひまわりが思い出されました。

二つの異なる要素の対比がたくさん
二つの異なる要素の対比がたくさん
見た目の直感を大切に
見た目の直感を大切に

これらの刺繍は、精研の代表取締役である樋口大の手によるものです。上記の作例を含め、これまでの作品を公開しています。是非ご覧下さい。

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